『きっと、うまくいく』(少しネタバレあり)

 本国では2009年に公開され、インド映画歴代興行収入1位を記録したというインド映画。
 普段、インド映画は見ないのだが(見たことがあるのは、『ムトゥ 踊るマハラジャ』『ロボット』くらいだと思う)、かなり評判が良かったので観に行くことにした。
 作中のノリについていけるかどうかが、本作を評価するかどうかの分かれ目だろう。観賞途中でそのことに気付いてからはできるだけノろうと努力したが、いまいちノりきれなかった。
 ギャグが一昔前のノリであまり笑えなかった。日本の昔のコメディ番組みたいなベタな笑いがほとんどで*1、ベタな効果音がそれに拍車を掛けていた。だから、あらゆるオチがほぼ予想通りで、それもあってあまり笑えなかった(ランチョーの正体も、彼が替え玉であったと判明した時点で、多分そうだろうなと分かった)。特に、チャトゥルがファルハーンらに書き換えられた原稿のせいで、ひどい演説をする場面は、さすがに丸暗記しただけとはいえチャトゥルも気づくだろうと思ってしまったのと、言葉遊びが主なので、作中の聴衆たちが大笑いすればするほどこちらは醒めてしまった。しかも、それがかなり長く続いてくどかった。そんな中、一番笑ったのは、唐突な“interval”の挿入シーンだった*2
 ミュージカルシーンはさすが本場だけあってノリが良くて気分は高揚させられたが、その間、物語の進行は完全にストップするので、そのシーンが結構長いのには辟易した。それでも普通のインド映画に比べれば短いらしいのだが。

 理由までは分からないが、上映中に2人ほど退場していた。そして、二度と戻って来なかった。

 現在から過去を回想するという構成なので、緊迫感がない。例えば、ある登場人物が死にそうになっても、助かることが分かっているのでハラハラしない。また例えば、冒頭で登場人物たちがある程度の社会的地位にあることが描写されるので、面接の結果に一喜一憂できない。

 ただし、オチが読めるというのは、それだけ伏線がしっかり張ってあり、構成がしっかりしているということで、他愛のないエピソードだと思っていたものが、後になって伏線であったと気付かされるということがしばしばあり、そこには感心させられた。

 説教臭い。高度経済成長期の社会が陥りがちな能力主義、点数主義、競争主義、等に対する批判。インドでは目新しいかもしれないが、日本で暮らす僕はどこかで聞いたことがあるような説教でしかない。
 社会的成功そのものを目的とするのではなく、自らの成長をこそ目的とせよ(さすれば、成功はそれに付いてくる)。競争に勝つこと=幸せ、ではない。好きなことを仕事にせよ。親たちからのプレッシャーが子供を苦しめている。といった「そんなことは分かっているんだがな……」と思うような説教ばかりである。それは他方で普遍的であるということでもあるのだが、それを聞かされることの退屈さは如何ともし難い。

 作中で描かれているのは現在のインド社会の縮図であり、ランチョ−は現代インド社会が陥っている問題に対する処方箋なのであろう。
 すなわち、本作は寓話、おとぎ話なのであって、全てがあまりにうまく行き過ぎるのも、そう考えれば受け入れやすくなる。

 本作は作中で3人も自殺を図る人物が出てくる自殺映画でもあるのだが、インドでは若者の自殺率が非常に高いというのは本作を見て初めて知った。しかしながら、そのインドよりも日本の方が自殺率が高いという事実には暗澹とせざるを得ない。

・国の自殺率順リスト - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E8%87%AA%E6%AE%BA%E7%8E%87%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88

 ところで、本作の原題“3 Idiots”というのを見て思ったのが、「三馬鹿」という言い方は外国にもあるのかということである。
「三馬鹿トリオ」という言葉もあるが、馬鹿はなぜか三人一組でやって来る。
 もしかして、「三馬鹿」というのは外国由来の概念なのだろうかと思って、“3 idiots”や“three idiots”で検索しても、この映画のことしか出てこない。そこで、「三馬鹿トリオ」で検索すると下のサイト(ウィキペディア)がヒットした。

・三ばか大将 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E3%81%B0%E3%81%8B%E5%A4%A7%E5%B0%86

『三ばか大将(The Three Stooges)』は、アメリカでは1930年代より短編映画の人気者で、テレビ時代が始まった1949年にはかつての短編映画をテレビ用に編集し放送、あまりの人気に加えテレビ草創期のソフト不足もあり、おびただしい回数再放送されてアメリカ人が誰でも知っているコメディーの大スターとして認識される様になった。
日本でも1963年から日本テレビで放送され(1963年6月 - 1964年11月、日曜19:30 - 20:00(JST))、スポンサーの森永製菓がイラストを今で言うマスコットキャラクター化するほどの人気を博していた。更に1966年9月から同年12月までNET(現:テレビ朝日)でも、『トリオ・ザ・3バカ』というタイトルで放送された(金曜19:30 - 20:00[JST])。

 原語は“idiots”ではなく“stooges”だが、邦題の『トリオ・ザ・3バカ』は、「三馬鹿トリオ」という(重複)表現とほぼ同じであり、これが起源と考えても良いように思う。もちろん、確証はないので覆される可能性も十分にあるが。
 例えば、「三バカラス」、いや「三羽烏」はどうか? 三羽烏から最後の「らす」の語を引けば、「三馬鹿」となる。
三羽烏」という表現は、湯泉神社の縁起が由来という説をネットで見つけたが、もしそれが本当だとしたら、かなり古くからあった表現であるだろう。
 結局のところ、原題の“3 Idiots”の由来は分からなかった。インドにある言葉を英訳しただけなのか、英語に元々ある表現なのか。慣用句ではなくて、単に「馬鹿が3人いる」という意味なのか。

 ところで、観賞中、ピアがベヨネッタに、ランチョーがトム・ハンクスに見えてしょうがなかった。

*1:シムラという名前も出てくるしw

*2:しかも、休憩時間があるわけでもないしw